お昼になると、工場で働く方たちが、それぞれの自宅へ食事に帰っていく。

フクシンさんを訪ねたときのことで、今も印象に残っている風景です。手袋を縫う仕事と、そこで働く人たちの暮らしが、とても近いところにある。工場の設備や技術を見せていただく合間に、この土地でものをつくることの輪郭が、少し見えたような気がしました。

RIDGE MOUNTAIN GEARのグローブづくりをお願いしている株式会社フクシンさんは、香川県東かがわ市の白鳥にあります。手袋づくりで知られるこの地域で、1977年に問屋業として創業。手袋を中心に、企画から製造、販売までを手がけています。
フクシン公式・事業内容

僕からお声がけし、つくりたいグローブのイメージを伝えたところから、一緒のものづくりが始まりました。その後、何度も何度もサンプルをつくっていただくことになります。

手を知る人たちと、手袋をつくる。

手袋は、身につけるものの中では小さな製品です。けれど、その中に収める「手」は、とてもよく動きます。

指を開く。曲げる。握る。親指と人差し指で、小さなものをつまむ。

山でも日常でも、僕たちは無意識に手を使っています。ファスナーを引いたり、ポールを握ったり、荷物を取り出したり。そのたびに、指の位置も、手のひらの形も変わります。

手を知る人たちと、手袋をつくる。

手袋には、そうした動きについてきてほしい。暖かさや肌触りに加えて、手を入れたときの収まりや、ものを持ったときの動かしやすさも、使い心地を左右します。

指の長さや太さ、付け根の位置。手のひらの幅と厚み。ほかの指とは違う角度で動く親指。自分の手をあらためて眺めると、なかなか複雑な形をしています。

それを平らな生地から包み込むためには、どこで生地を分け、どこをつなぎ、どこにゆとりを持たせるかを考える必要があります。素材が伸びる方向や、縫い目が手に触れる位置も関わってきます。手の輪郭をなぞるだけではわからないことが、立体にしてみると見えてきます。

フクシンさんとのサンプルづくりでは、僕が思いも寄らなかったパターン、つまり型紙を提案していただくことがありました。

手を知る人たちと、手袋をつくる。

自分の中にも、つくりたい形はあります。でも、その形へたどり着く道筋には、まだ知らない方法がある。提案をいただくたびに、手袋をつくり続けてきた方々が持つ、引き出しの多さを感じました。

たとえば、指が動かしにくいと感じたとき、全体を大きくする方法もあれば、特定の部分の形やゆとりを見直す方法も考えられます。どこを変えれば、望んでいる使い心地に近づくのか。そうした判断には、素材と手の動きの両方を知っていることが必要です。

僕が伝える使い心地のイメージを、型紙や縫製の方法へと落とし込んでいく。何度もサンプルをつくる時間は、お互いの考えていることを、具体的な形で確かめていく時間でもありました。

工場で見せていただいた設備にも、手袋づくりならではのものがありました。

手を知る人たちと、手袋をつくる。

「PEGASUS DM-10」という、1本の針と2本の糸で縫う手袋用のミシンです。訪問した当時、すでに製造されていないと伺ったこのミシンが、何台も現役で使われていました。メンテナンスを重ね、大切に使い続けられている道具です。

手袋には、指先のカーブや指と指の間など、細かく形が変わる場所があります。小さな部材を合わせ、その形に沿って縫い進める。ミシンを扱う方の手元には、そうした仕事を繰り返して身につけてきた技術があります。

当時、このミシンを使いこなせる職人が工場を離れると、別の工場から声がかかることもあると伺いました。その話からも、一人ひとりの技術が、この産地でどれほど大切にされているのかが伝わってきます。

手を知る人たちと、手袋をつくる。

フクシンさんは、手袋の縫製技術の継承に取り組むため、2013年に本社内へ、裁断から縫製、仕上げ、包装までを行う工場を設けています。産地で技術者の高齢化や工場の廃業が進むなか、製品をつくり続ける場所を自社の中につくったということです。
フクシン公式・ジャージ生産

長く使われてきたミシンを整備すること。そのミシンで縫う技術を受け継ぐこと。そして、実際に製品をつくる仕事が続くこと。そのつながりの中に、僕たちのグローブづくりもあります。

工場には、糸から製品を編み上げる自動編み機も数多く並んでいました。

生地を裁断して縫い合わせる方法もあれば、糸を編んで形にする方法もある。手袋というひとつの製品にも、いくつものつくり方があります。フクシンさんは、さまざまな編み機を備え、小ロットのニット生産にも対応しています。
フクシン公式・ニット生産

手を知る人たちと、手袋をつくる。

用途に合う設備を選び、それぞれの方法を使いこなす。その現場で、もうひとつ、思わず目を近づけてしまったものがありました。

手袋の表面を毛羽立たせる、起毛のための機械です。

ブラシにあたる部分をよく見ると、木の実のようなものが付いている。何だろうと思って尋ねると、実際に植物を使っているのだと教えていただきました。海外から取り寄せて、ブラシとして使っているとのことでした。

自動で製品を編み上げる機械を見たあとに、植物が働く工程に出会う。こういう発見があるから、生産現場を訪ねるのは楽しいのです。

手を知る人たちと、手袋をつくる。

起毛は、表面の繊維をかき出し、毛羽を立たせる加工です。編み上がったものに、さらに表情や風合いを加えていく。同じ製品でも、仕上げの工程が、見た目や触れたときの印象に関わります。

手袋を手に取って「ふわっとしている」「気持ちがいい」と感じる。その感触に至るまでにも、素材を選ぶことに加えて、加工や仕上げの仕事があります。普段はひとことで言ってしまう肌触りにも、つくる側から見れば、いくつもの工夫があるのだと感じました。

検品に使う道具を、自分たちでつくっていたことも印象に残っています。

毎日、繰り返し行う仕事だからこそ、確認しやすいこと、扱いやすいことが大切になります。手元の作業に合う道具を考え、形にしていく。製品そのものをつくる技術に加えて、製品を確かめる仕事にも、現場の知恵が使われています。

手を知る人たちと、手袋をつくる。

完成した手袋からは、こうした道具の姿までは見えません。それでも、仕上がりを支える仕事の一部として、確かにそこにあります。

工場を訪ねると、僕はよく、自分が考えた製品に、どれだけ多くの人の知識が加わっているのかを実感します。

型紙を提案してくださる方。細かな部分を縫う方。機械の調子を整える方。仕上がりを確かめる方。それぞれが日々積み重ねている仕事に、自分のつくりたいものを支えていただいています。

手を知る人たちと、手袋をつくる。

だから、製品をご紹介するときには、その背景にいる人たちのことも、できるだけお伝えしたいと思っています。どんな素材を使っているかと同じように、誰の技術によって、その形になっているのかを知っていただけたらうれしいです。

フクシンさんのことを思い浮かべると、何度もつくっていただいたサンプルや、使い込まれたミシン、植物を使った起毛の機械と一緒に、あのお昼の風景が浮かびます。

この街で暮らし、この街で手袋をつくる人たち。その人たちの仕事が、遠く離れた山や、誰かのいつもの道へ届いていく。

手にはめたときに、すっと馴染む。そのための工夫を、これからもフクシンさんと一緒に重ねていきたいと思っています。