荷物を入れる。背負う。肩のベルトを少し引いて、歩き出す。

バックパックを使うときの動作は、とてもシンプルです。そのひとつひとつを支えるために、いくつの部材が使われ、どれだけの工程が重ねられているのか。つくる側にいる僕自身、その数をあらためて確かめると、少しため息が出てしまいます。

RIDGE MOUNTAIN GEARのバックパック『One Mile』は、以前の仕様で、ひとつをつくるために63ものパーツを使っていました。

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

それぞれの部材を揃え、必要な形に裁断し、向きや位置を確かめながら縫い合わせていく。手元に届くときにはひとつの道具になっているものが、工場では、たくさんの小さな部材として準備されています。

その仕事を引き受けてくださっているのが、兵庫県豊岡市の株式会社木和田正昭商店さんです。

豊岡は、長く鞄づくりを続けてきた産地。その「鞄団地」と呼ばれる場所に、木和田正昭商店さんの工場はあります。創業は1959年。熟練の職人と、鞄づくりに惹かれて集まった若い職人が、ともに製品づくりを担っています。長年積み重ねてきた経験を、次の世代へと手渡している工場です。
木和田正昭商店のものづくり

僕がバックパックの生産を考えるとき、まず頭に浮かぶのは、部材を準備し、管理する仕事の多さです。

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

生地、テープ、バックル、ファスナー。ひとくちに生地といっても、本体を形づくるもの、ポケットになるもの、内側で補強を担うものでは、役割が異なります。同じ素材でも、使う場所によって形や寸法が変わります。

必要な数が揃っているか。裁断した形は正しいか。表と裏、右と左、取り付ける向きは合っているか。小さな部材も、それぞれに確認すべきことがあります。

そして、そのすべてを、必要な工程へ、必要な状態で届けなければなりません。ひとつの部材の準備が遅れるだけでも、その先の組み立てが進まなくなることがあります。ミシンが動く前から、製品づくりは始まっています。

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

63という数字には、それだけ多くの部材を扱い、間違いなく次の工程へつないでいく仕事が含まれています。

組み立てる順番にも、鞄づくりの知識が必要です。

平らな生地の状態であれば縫える場所も、袋状になってからではミシンが届きにくくなります。たとえば、内側に取り付ける部材や、縫い目に挟み込むテープは、その後の工程まで考えて準備しておく必要があります。

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

完成した姿を思い描きながら、そこへ至る順番を組み立てる。プラモデルに少し似ているようにも思えます。ただ、扱っているのは、曲がり、重なり、厚みが変わる柔らかな素材です。決めた位置を保ちながら、立体へと縫い上げていかなければなりません。

図面に描かれた線が、実際にはどのような手順で縫えるのか。そこをつなぐのが、工場の方々が蓄えてきた経験です。

裁断の工程では、パーツの形に合わせてつくられた金型を使います。生地に金型を当て、大きなプレス機で圧力をかけて切り抜いていく。同じ形のパーツを繰り返し、精度よく用意するための方法です。

一方、金型では対応しにくい細かなパーツや素材には、CAMと呼ばれる自動裁断機を使います。形状のデータに沿って裁断する設備です。

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

木和田正昭商店さんは、CAD・CAMなどの技術で職人の仕事を支え、工場内で一貫して生産する体制を紹介しています。手を動かす仕事と設備が、それぞれの持ち場で製品の精度を支えています。
豊岡鞄による企業紹介

縫製の現場にも、用途に応じたさまざまなミシンがあります。

そのひとつが、あらかじめ縫い方を設定できるコンピュータミシンです。たとえば、幅2cmのテープを縫い留めるとき、どこに針を落とし、どのような経路で、何度縫うかを設定しておく。繰り返す縫製のばらつきを抑えるために役立ちます。

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

もちろん、設定した縫い方が適切かを考えることも、部材を正しい位置に置くことも、縫い上がりを確かめることも必要です。機械の再現性は、そうした準備や判断と組み合わさることで、製品の品質につながります。

また、バックパックの底など、立体になった部分を縫うためには「腕ミシン」が使われます。細長く突き出した腕のような部分に製品を通し、筒状のものや奥まった場所を縫いやすくしたミシンです。

平面のパーツが少しずつつながり、やがて荷物を入れられる形になる。形が変われば、縫いやすい方向も、手で支える場所も変わります。その工程に合った設備を使い、素材を扱う技術を重ねて、一つのバックパックが出来上がっていきます。

バックパックは、荷物を入れて使う道具です。背負って歩けば、中の荷物が動き、ショルダーストラップやその付け根には繰り返し力がかかります。持ち上げる。下ろす。開ける。閉める。日々の何気ない動作を受け止める場所が、あちこちにあります。

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

だから、僕は外から見える形と同じように、使うときに力がかかる場所や、完成すると見えにくくなる部分のつくりを大切にしたいと思っています。

必要な位置に補強があること。部材が確実に取り付けられていること。縫い目が整い、ファスナーやバックルがきちんと機能すること。こうした細部を揃えるために、縫製にも検品にも、多くの確認が必要になります。

豊岡には、その品質を産地として確かめる「豊岡鞄」という地域ブランドがあります。兵庫県鞄工業組合が定める基準に基づく企業審査と製品審査があり、素材や縫製、補強、機能、仕上げなどが確認されます。認定は、それらの審査を経た製品に与えられるものです。
豊岡鞄の認定について

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

木和田正昭商店さんも、その認定企業の一社です。長年の経験に加えて、品質を具体的な項目として確かめながら製品をつくる。その積み重ねも、ものづくりをお願いするうえでの信頼につながっています。
豊岡鞄・木和田正昭商店

RIDGE MOUNTAIN GEARでは、それぞれの製品を、その分野に長けた工場さんにお願いしています。

僕には、使いたい素材や、つくりたい形、実現したい使い心地があります。それを製品にするには、素材の扱い方や縫製の手順、安定して生産するための工夫が必要です。

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

長年、その製品と向き合ってきた方々の技術や知識を、自分のものづくりのために分けていただける。それは、とても貴重なことだと思っています。

木和田正昭商店さんは、小さなブランドに対する小ロット生産や技術提供への協力も、ものづくりの姿勢として掲げています。それぞれのブランドが持つ考えやこだわりを大切にしながら、形にしていく。その姿勢を知ると、一緒に製品をつくってくださることのありがたさを、あらためて感じます。
豊岡鞄による企業紹介

製品の説明では、どうしても素材の名前や重さ、容量などが中心になります。使う道具を選ぶうえで、どれも大切な情報です。そこに、誰が、どのようにつくっているのかという情報も添えていきたいと僕は思っています。

一本のテープが縫い留められるまでにも、寸法を決め、切り、位置を合わせ、縫い、確かめる仕事があります。完成したバックパックには、そうした仕事があちこちに重なっています。

63のパーツを、ひとつのバックパックに。

次にバックパックを手に取ったとき、ショルダーストラップの付け根や、ポケットの内側、底の縫い目を、少し眺めてみてください。いつも使っている道具の中に、つくった人の仕事が見えてくるかもしれません。

荷物を入れる。背負う。歩き出す。

その動作を毎日繰り返せるように、豊岡でひとつひとつの部材をつなぎ、仕上げてくださる人たちがいます。RIDGE MOUNTAIN GEARのバックパックは、木和田正昭商店さんのそうした仕事によって形になっています。