帽子を選ぶとき、鏡の前で少し角度を変えたり、深くかぶり直したりすることがあります。

もう少し深いほうが落ち着く。つばは、このくらいの長さがいい。正面はもちろん、横から見たときのかたちも気になる。頭に乗せる小さな道具ですが、わずかな違いで、かぶり心地も印象も変わります。

気に入った帽子に、つい手が伸びるのは、そうしたいくつもの感覚が、自分にちょうどよく収まるからかもしれません。

RIDGE MOUNTAIN GEARの帽子類をつくってくださっているのは、香川県観音寺市豊浜町の「株式会社島田」さん。僕たちが思い描くかたちや使い心地を、帽子づくりの技術で支えてくださっているメーカーです。

かぶり心地を、かたちにする。

その始まりは、1935年、昭和10年。家族で農作業用の麦わら帽子をつくり、販売する仕事から出発しました。

日差しを遮り、外で働く人の頭を守る。麦わら帽子は、暮らしと仕事のすぐそばにある道具だったのだと思います。山で使う道具と、毎日の暮らしで身につけるもの。その両方を考える僕たちにとって、島田さんのそんな始まりには、親しみを感じます。

島田さんの歩みには、少し思いがけない転機があります。

かぶり心地を、かたちにする。

家業を継いだ宝田和久さんのもとへ、四国八十八ヶ所を巡っていた大阪の帽子会社の社長が、道に迷って立ち寄ったのだそうです。当時、農作業用の麦わら帽子の事業は縮小していました。その出会いをきっかけに、宝田さんは大阪で半年ほど帽子づくりを学び、ファッションの分野へと仕事を広げていきます。

道に迷って訪ねてきた人との出会いが、工場のその後につながっていく。長く続く会社の歴史に、そんな偶然があるのも面白いところです。そして、その機会を受け取り、新しい技術を学びに出かけたことに、宝田さんのものづくりへの姿勢が表れているように感じます。

麦わら帽子から始まった仕事は、フェルトの型入れや、布を裁断して縫い上げる帽子づくりへと広がりました。素材も、求められるかたちも変わるなかで、できることを増やしながら、帽子をつくり続けてきた。その積み重ねの先に、僕たちの帽子もあります。

帽子づくりの面白さは、頭を包む立体を、素材と構造からつくっていくところにあると思います。

かぶり心地を、かたちにする。

たとえば、布でつくるキャップ。頭を覆う部分はいくつかのパーツに分かれ、それぞれが曲線を持っています。平らな状態では帽子に見えない布が、縫い合わされることで丸みを帯び、頭に沿うかたちになる。つばが加わると、顔のまわりにできる影や、全体の印象も変わっていきます。

同じ頭まわりの寸法でも、深さや丸み、前側の立ち上がり方が違えば、かぶったときの感覚は変わります。サイズ表の数字に加えて、実際に頭を入れたときに確かめたいことが、帽子にはたくさんあります。

僕たちが大切にしたいのも、その感覚です。

山を歩いているときに、自然にかぶっていられること。休憩中に脱いで、またかぶるときにも、すっと馴染むこと。そして、山から帰ったあと、いつもの服にも無理なく合わせられること。かぶり心地と見た目、その両方に納得できる帽子をつくりたいと思っています。

かぶり心地を、かたちにする。

そのためには、素材選びや型紙とともに、それを狙ったかたちに仕上げる技術が必要になります。

島田さんでは、帽子の仕様に合わせて、裁断の方法を選んでいます。CAD-CAMを活用した裁断、金型を使った裁断。そうした方法で対応しにくい製品や小ロットの製作では、職人が個別に型を起こして裁断することもあるそうです。

同じ「布を切る」という仕事にも、いくつかの方法がある。どの素材を、どんなかたちに、いくつつくるのか。その条件に合った方法を選ぶところから、帽子づくりは始まっています。

かぶり心地を、かたちにする。

縫製でも、本縫いや環縫いなど、性質の異なる縫い方を使い分けています。素材や使う場所、求める仕上がりに合わせて、どの方法が適しているかを考える。設備と、それを扱う人の知識が一緒になって、一つひとつの仕様を形にしていきます。

その細やかさを知る手がかりのひとつが、縫い代です。

縫い代とは、生地を縫い合わせるために、縫う線の外側に残しておく部分のこと。島田さんは帽子づくりの技術を紹介するなかで、およそ4mmという縫い代の狭さを挙げています。指先のほんの一部分ほどの幅を扱いながら、布を正確につないでいく仕事です。
島田の縫製技術

帽子のように小さなパーツを組み合わせるものは、それぞれをどこで縫い合わせるかが、全体の寸法や丸みに関わります。曲線を持つ布の端を合わせ、決められた位置を縫い進める。その積み重ねによって、目指すかたちへと近づけていきます。

かぶり心地を、かたちにする。

そして、その精度を、次につくる帽子にもつないでいく。生地を扱う手加減や縫う位置を安定させ、一つひとつの仕上がりを揃える。いつものかぶり心地を届けるために、製造の現場では、こうした細かな仕事が繰り返されています。

手元の帽子を眺めても、縫っているときの難しさまでは、なかなか想像できないかもしれません。でも、裏側の接ぎ目をたどってみると、いくつもの布がつながり、一つの立体になっていることが分かります。何気なくかぶっている帽子にも、つくる人が合わせ、縫い、整えた場所があるのです。

島田さんが大切にされているのは、自分たち自身が使いたいと思えるものをつくること。

そして、これまで製品づくりを裏側から支えてきた職人たちに、もっと光が当たるようにしたいという思いです。

かぶり心地を、かたちにする。

その考えは、自社ブランドの「HICKTOWN CRAFTSMAN CLUB (HCC)」にもつながっています。使われなくなった服などを素材に、帽子へとつくり替える取り組み。持ち主にとって思い出のあるものが、新しいかたちで、もう一度日々の暮らしに戻っていきます。
HCC公式サイト

素材を見て、どう使えるかを考え、帽子に仕立てる。長く培ってきた技術が、今あるものとの付き合い方を広げている。僕はそこに、帽子をつくる工場の面白さと、これからの可能性を感じます。

誰かの考えたものを形にする仕事と、自分たちの発想からものを生み出す仕事。その両方を持つ島田さんと、僕たちは帽子をつくっています。

つくりたいもののイメージを持っている人と、実際につくるための経験を持っている人。それぞれが考えていることを伝え合い、実物を通して確かめていく。僕にとって、一緒にものをつくるというのは、そういう関係です。

かぶり心地を、かたちにする。

たとえば、かぶったときの感覚を言葉にしようとしても、「少し浅く」「もう少しやわらかく」だけでは伝えきれないことがあります。どの部分を、どのように変えれば、目指している感覚に近づくのか。帽子づくりの専門家と考える意味は、そうしたところにもあると思います。

僕たちは、使う場面や、製品に込めたい意図をできるだけ具体的に伝えたい。島田さんが持つ技術や経験を受け取りながら、かぶる人にとって気持ちの良いかたちを探していきたいと思っています。

RIDGE MOUNTAIN GEARの帽子を気に入ってくださった方に、島田さんの名前も知っていただけたらうれしいです。

かぶり心地を、かたちにする。

色やデザインが好き。かぶり心地が自分に合う。そんなふうに選んだ帽子から、そのかたちをつくっている人や場所へ、関心が少し広がっていく。自分が身につけているものの背景を知ることは、道具との付き合いを、もう少し楽しくしてくれると思います。

香川県観音寺市豊浜町。農作業用の麦わら帽子から始まった帽子づくりは、人との出会いや新しい挑戦を重ねながら続いてきました。

その仕事が、今、僕たちの帽子にもつながっています。

朝、出かける前に手に取る。山へ向かうときにかぶる。歩き終えて、そのまま街へ帰ってくる。そんな日々のなかで自然に使っていただける帽子を、これからも島田さんと一緒につくっていきたいと思っています。